奥穂高岳・西穂高岳縦走
一般山岳ルート日本最難関(だそうだ)

主なピーク:奥穂高岳(3190m) ジャンダルム(3163m) 西穂高岳(2909m)
「西穂山荘よ、まだか〜」

「終着の地、西穂山荘」
無体力トレッカーRIKI、ついに奥穂−西穂を完歩。

  


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ジャンダルム ⇒ コブ尾根ノ頭 ⇒ 畳岩尾根ノ頭 ⇒ 天狗のコル


この後もシャレにならない危険箇所のオンパレードなのであるが、すっかり難所は終わった勘違いをしていたため、頭の中は「後は気を緩めずにのんびり行けばいいもんね」とのんきなもの。「チョコチョコ登ったり下ったりしながら、天狗のコルまで下る。まあ次の難所はそこからでしょ」・・・これが大間違いなのであった。ジャンでラーメンを作ったこともあり、常識外の大休止だったのだ。


ジャンからの下り、そして次のコブ尾根ノ頭まで稜線を忠実にたどる。左右はズバっと切れ落ちている。「おいおい、こんなん聞いてないよぉ〜」ほとんどが命の保証が無い稜線だ。断崖絶壁・・足の裏は数百メートル何も無い、という箇所もある。下を覗くと心臓がバクバクしだす。ルートを忠実にたどるつもりが、時々マークを見失う。「ホントにこんなヤバイところ行くのぉ〜」と不安に思う一方、マークを見つけた時は不思議にほっとする。

まだまだ続く稜線。
あのせまい上を行くんだよ!


不安定な岩をヘロヘロ歩く。危険なリッジが終わったら、今度は岩の急斜面の下降(クサリがあって当然のようなところにも何も無い)、そしてまたリッジの上を行く。神経衰弱。そして頭がもうろうとした状態で、狭いリッジの上をビビりながら這っていると(もはや「歩く」という状況ではない。怖くて立てない)、突然リッジの先が絶壁になる。「え〜え〜!*☆×△、ここ降りるのかな〜ぁ(涙)」。おいおい「馬の背」より怖いじゃねえかよぉ〜。うそだろう〜。どうするんだよ〜。 

泣く。

「ひょっとして、あなたは畳岩尾根ノ頭さんですか?」と岩をナデナデするRIKI。恐怖で完全に頭が逝ってしまっている。


「ここからいったいどうするんだよおぉぉぉ〜」と恐怖におののく。ふと左側を見ると、岳沢側の斜面を登山者がトラバースしているのが見えるではないか!「ゲゲゲゲ!ル、ルート間違ったんだ」。頭がもうろうとしていて、かつ稜線上を忠実にたどらなければいけない、という思い込みが強すぎ、ルートマークを見落としたらしい。本来、畳岩尾根ノ頭は岳沢側を巻くのが正しいルート、それをご丁寧にも危険な岩塊をピークまで上り詰めてしまったのだった。ほっとしたのはいいが、方向転換も命がけ、おそるおそる絶壁の上で身体をひねって、厳しい岩斜面を下って戻る。(写真など撮る余裕はまったくなし!!)


やれやれ、命拾いしたぜ、、、ヨレヨレと正しいルートに戻る。、すでに抜け殻となってしまったRIKIには正常な判断力が失せかけている。「へへへ、天狗のコルちゃんはどこかな〜」頭もおかしくなってきた。しばらく歩くと、ズバーっと延々と下りの斜面が続いているのが見える。その向こうにはドカーンっと大きな山がそびえている。「ひょ、ひょっとして、あれが天狗ノ頭ぁ〜?」「すると・・・」そう、目の前の谷底のようなところが「天狗ノコル」なのである。「ええ〜、これ下って、またあの山登んの〜 ●*☆×△▼&$!」
絶望感が一気に訪れるのであった。


RIKIを絶望の淵に落とし込んだ光景
ここからグワーっと下って、あれ(天狗頭)登る。



ここまでバカ丁寧に稜線を忠実にたどったことで、大いにタイムロスをしている。すでに歩くスピードはお爺さん、亡霊のように天狗のコルに降りていく。約300mの下降である。それでも岩だらけで、ふてくされて転ぼうものなら大怪我間違いなしなので、やっぱり気は抜けない。精神力の勝負。ヨレヨレ、ヨロヨロ、ヘロヘロと降りていき、天狗のコルに到着。おそらくこの下降は普通の人の3倍は時間がかかっただろう。天狗のコル到着は11:40、予定より1〜1.5時間は遅れている。


ここから西穂山荘までのコースタイムは約5時間、休憩なしの単純計算でも16:30、休憩を入れると17:30〜18:00の到着予定となってしまう。どうすんだよぅ〜。あ〜あ、ジャンでラーメンなんか食べるからだよぅ〜(涙)
おまけに飲料水の量も心細くなってくる。


時間は切迫しているが、あせってそのまま行くと大怪我のもと。水分補給&レーション摂取後、ほぼ垂直のクサリにとりつく。ずいぶん前に群馬の妙義山のクサリにビビリまくったが、そんなのはここでは「ヤサシイ」世界、クサリが無いのが当たり前。垂直とまでは言いすぎだが、ほぼそれに近いところの岩を何の確保もなしによじ登る。悪戦苦闘の末、天狗ノ頭に近づく。


天狗のコル。ずいぶんタイムロス
しているが身体動かないもんね
天狗ノ頭に近づく。向こうに間ノ岳と西穂。
天狗の頂上には十字架?RIKIの墓場か?



天狗ノ頭 ⇒ 間天のコル ⇒ 間ノ岳 ⇒ 西穂高岳


思考能力はほぼゼロ。何の感慨も無く「天狗ノ頭」に到着(十字架には「天狗岳」と表示してある)。奥穂がきれいだったが、何の感激も無い。もくもくとノルマをこなすだけ。水の残りを気にしながら。。。
休憩もそこそこに、またもや岩の斜面を下る。あと何回上り下りするのだろう?この先は「間天のコル」まで「逆層スラブ」となり、それをクサリで下る。ガイドブックでは「難所」扱いであり大いに緊張したが、取り付いてみるとここがこのコースで一番楽であった。クサリにまたがりレスキュー隊気分で一気に下ることができた。あっという間に「間天のコル」到着(ちなみに「間天」とは間ノ岳と天狗ノ頭のこと)。


・・ガイドブックを過信するなかれ。


天狗ノ頭。奥穂が美しい。遠くに槍ヶ岳。
しかし何の感慨もなく写真を撮って通り過ぎるのみ。
間天のコルにて。「オマエはもう
既に死んでいる」状態


時間は13:00。西穂山荘までのコースタイムは休憩時間なしで4時間10分。17:00までには到着無理だな〜。でもダラダラしてたら、どんどん遅くなるぞ。よーし、先も見えてきたし、頑張るべ! いい加減なめんなよ! 
調子の上がらない身体にムチうつ、というよりは、「怒り」がアドレナリンを噴出させた。恐ろしいコースに対してのこれまでの「負け犬」根性からの脱却。初めてコースと対等に向き合える気がした。「一気に西穂まで行ってやる。見てろよ」


ここから無体力トレッカーの逆襲が始まるのである。浮石だらけの間ノ岳をよじ登る。スラブを巻き、壁を乗り越え、一気に頂上に出る。一方で冷静さは失えない。というのも間ノ岳は上りも下りも、ぜ〜んぶ浮石。浮石間引いたらこの山無くなっちまうんじゃねえか?というくらいの山だ。4畳ほどの大きさの石がグラグラ揺れる。「こんなデカイ浮石見たことね〜」


間ノ岳から西穂を確認。ゴールは近そうだが、それまでには大小5,6のピークがありこれが曲者らしい。西穂までの命がけの障害物レースだ。浮石に注意しながら猛スピードで間ノ岳を下る。(普通だったらクサリがありそうな坂。義経の鵯(ひよどり)越えの逆落しの心境?)。下り終わって、「さあ障害物競走だ!」ひるまずにまず最初のピークに立ち向かう。グイグイと高度を上げる。しばらく両手を使って岩を登ると最初のピークに到着する。「ひとーつ!」。そしてまた急峻な坂を下る。下り終わってまた次のピーク。これも制覇して「ふたーつ!」・・・・こういうかんじでどんどんピークをこなしていく。
間ノ岳から西穂方面を見る。
この間に大小5,6のピークあり。


こう書くと簡単そうだが、途中には垂壁を岩登り並によじ登るところや、後ろがスパっと切れ落ちたトラバースする箇所もあり、最後の詰めでじわりと汗が噴出してくる気が抜けないルートには違いない。5つ目あたりのピークで目の前に鋭いピークが目に飛び込む。「ひょっとしてあのピークが西穂?」そのとおり、ようやく西穂高岳(2909m)を捉える事ができた。「やった西穂を過ぎればやっと楽勝登山道が俺を待っているもんね」。勢いで一気に西穂の急斜面をよじ登る。そして15:30、ようやく西穂高岳山頂に到着!!!!

ついに捉えた西穂。カッコイイぜ! 西穂山頂にて
誰もいない独り占めの世界



西穂高岳 ⇒ ピラミッドピーク ⇒ 独標 ⇒ 西穂山荘


ところがここでまたB型の例の悪い癖が出るのである。「先が見えたら一気に手を抜く」という悪い癖が。。。誰もいない独り占めの山頂を思いっきり堪能してしまうのである。すっかり終わった気分になってしまい。頭の中は終了モード。身体の疲れも一気に噴出してくるのである。「もうあとは普通のシャバ登山道だけだもんね」。ああ、悲しきマイペース楽天男よ。。


西穂から望んだ独標(2701m)や西穂山荘ははるかかなた、ずっと下。「まだまだあるなあぁ〜」


西穂からの下りは予想以上に手ごわかった。これまでよりかはレベルは確かに易しいが、危険な箇所も少なくない。独標(2701m)は有名なので知っていたが、まさかそれ以外にもあんなにアップダウンが激しいとは予想してなかったぜ。終了モードで緊張感が無くなった身体には余計にこたえる。死にそうにツライノデアル。乾いた雑巾からさらにエネルギーを搾り取られる感覚。またもやゾンビ状態。ヨレヨレヘロヘロと下ったり上ったり。ようやく独標についた!!と思ったら、そこの標識にかすかに「ピラミッド」と書いてある。「●*☆×△▼&$!・・ピラミッドピークかぁ、がっくし。」 独標はまだまだはるか下なのであった。ああ神はなぜにこのように試練を与え賜うのか。。。


けっこうヤバイ鎖場もあったりで、「一般の」一般登山道にしてはハイレベルなり。ようやく17:00に独標にたどり着き、そこから、今度こそ緩い道をダラダラ下る。水は節約しながら飲んでいたため、ここまで何とか持ったが、ついに無くなってしまった。まさにギリギリ。西穂山荘の姿がなかなか見えない。近いのになかなか到着しない。それが余計に疲れを増す。空は暗くなり始め、精神的に追い詰められたような感覚になる。時間は18時、もう晩ゴハンはあきらめ自炊しよう。こんな時間になって呆れられるかな?ハイマツのブッシュ帯にはいり、大きな白い岩の道を下ると、ようやくホントのホントの執着地、西穂山荘に到着した。


左:西穂を見上げる。 右:西穂山荘にようやく到着



ようやく到着した。長かった。つらかった。怖かった。山荘のお姉さんが優しく迎えてくれる。俗人の世界を長い時間離れていただけに人のぬくもりが嬉しい。これぞ山小屋。通された部屋はなんと、奥穂でいっしょだったモリヤさんと、ジャンで写真を撮りあいっこした学生さん2名と一緒だった。メシを自炊して食べた後、4人で酒を飲む。ほっとしたのか、興奮が冷めやらぬのか皆喋る喋る。同じ恐怖を味わった人間同士で酒が進む。「このコースで1年間は飲めるね。」そう言って笑う。すばらしいひと時。おいしいお酒だ。
床に入って夢にうなされる。あの恐怖のシーンの数々が頭から離れない。
翌日は同じ大阪からのMさんと車をご一緒させていただくことになった。ロープウェイで下り、バスで新平湯温泉へ。温泉でいい汗を流した後、高山で腹いっぱい飛騨牛の焼肉を食べ、高速を運転を交代しながら大阪に戻った。


体調がすぐれない中、いい経験ができた。このコースは「恐怖心」との戦い。いきなりは無理かとは思うが、剱や大キレットをわけなく行ける人はチャレンジしてはいかが?RIKIの感覚では、怖さやハードさは剱の10倍以上かと感じる。あの「カニの横ばい」以上は10ヶ所を下らない。全体の90%は岩登りか岩下り。クサリはその中でもほんの数箇所だけ。


教訓::「馬の背と、ジャンで終わった気になるな」


おわり

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